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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)212号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

原告は、請求の原因四、1、(一)ないし(三)記載の理由により、引用例記載の考案における入賞装置が、<1>開放状態の開閉片間に入賞球が入ると、入賞球は開閉片を起立状態にして揺動杆の先端部に貯留されるが、右起立状態の開閉片間に第二の入賞球が入ると、第二の入賞球は開閉片の中間部分より框体に入り、揺動杆の上を転動してその重量により揺動杆の先端部を跳ね上げて貯留していた第一の入賞球を落下させ、開閉片を傾動させて開放状態にし、この開閉状態の開閉片間に入賞球が入ると再び右と同様の作用を繰り返すものであること、<2>揺動杆を転動した第二の入賞球は框体より外に出て行くものであるから、框体に入賞球の流出開口が設けられているが、入賞球の流出開口は揺動杆の長手方向にある後壁ではなく、揺動杆の後端部を突出させる側の反対側の側壁に設けられるものであることは、引用例に明示的には記載がないものの、引用例記載の考案においては自明の事項であつて、実質的にはその記載があるというべきである旨主張するので、右主張の当否について検討する。

1 成立に争いのない甲第二五号証(昭和四六年実用新案登録願第三六五八四号の願書)によれば、引用例記載の考案は、パチンコ機の遊技盤面上において適所に設けた複数の入賞装置を同時に作動させて行わしめる作動装置を提供するものであつて、従来の入賞装置等においては球の自重により一個の入賞装置のみ作動させて入賞球としていたが、これら従来の入賞装置より興味を倍加させることを目的とするものであること(引用例第一頁第一四行ないし末行)、その実用新案登録請求の範囲は、「球転流杆2と連杆8、屈曲片9を一体に構成し屈曲片9には入賞装置作動杆3の一端を載置し他端を入賞装置11′の揺動杆15′の後端部19′に載置して入賞球Aにより球転流杆2、連杆8、屈曲片9、入賞装置作動杆3及び揺動杆15′を関連的に同時に作動させることを特徴とするパチンコ機に於ける複数入賞装置の同時作動装置。」であること、引用例には、実施例の説明として、「1は球転流杆2および入賞装置作動杆3をそれぞれ支点4、5に軸支せる作動部を取着けた基板であつて遊技盤裏面に入賞装置と関連的に固着する。6は球転流杆2を常態において一個に重心がかかるようにした重錘であつて、7は球転流杆2の末端部において基板1と一体に設けた阻止片であつて重錘6により球転流杆2が球の転流に必要な角度を保持し得て尚その末端部が上方にあがるのを阻止している。8は球転流杆2と一体に設けた連杆であつて、その先端屈曲部9は、入賞装置作動杆3の一側端下面に接触して位置する。又入賞装置作動杆3は一側に重心がかかるように支点5より計算して他端より長く構成してあり従つて常に屈曲部9にその一側先端が載置されている。そして他側の先端は入賞装置11′の揺動杆15′の後端部19′面上に載置されている。10は入賞装置11′の框体12′を嵌装する切込である。13、13′は入賞装置11に開閉自在に設けた開閉片であつて、14は入賞球、15は支軸16によつて上下に揺動自在な揺動杆である。そして開閉片13、13′は下方において入賞球14により開放を妨げられ、閉止状態となつており入賞球14は揺動杆15の先端部17によつて景品球放出装置(図示せず)への流出を阻止されている。次に本考案の作動状態を順を追つて説明すると先ず開閉片13、13′が開放された入賞装置11、11′にそれぞれ入賞球14が入ると、入賞球14は開閉片13、13′を閉止して揺動杆15の先端部17にて止る。一方他の入賞孔(図示せず)より入つた入賞球Aは転流出口18より球転流杆2上に転流し球転流杆2は重錘6の重さに抗して流下して一方の入賞装置の框体12内に落下して揺動杆15の後端部19を押下げると先端部17は上方にあがつて入賞球14は釈放されて景品球放出装置に流出される。以上の作動を行うと同時に一方では球転流杆2の連杆8および屈曲片9も作動し入賞装置作動杆3も同時に作動して他方の入賞装置11′の揺動杆15′を作動させて入賞球14′を釈放させる。」(同第二頁第一行ないし第三頁第一八行)と記載されていること、引用例記載の考案は、右のような構成であるため、一個の入賞球Aにより同時に複数の入賞装置を作動させることができ、従来の入賞装置にない効果が期待でき、一層興味を増すものであること(第四頁第三行ないし第六行)引用例の図面第1図ないし第6図は別紙図面(二)記載のとおりであつて、実施例に関する右説明に符合する構造が過不足なく示されていることが認められる。

右認定の事実によれば、引用例記載の考案は、入賞装置11が前部に開閉自在に枢着された開閉片13、13′を、後部に框体12を有し、框体12には揺動杆15が揺動自在に枢着され、揺動杆15の後端部19は框体12の一側壁より突出しており、基板1には球転流杆2が揺動自在に枢着され、その一端は揺動杆15の後端部19上方に配置され、他端は他の入賞孔の下方に配置されているとともに、右他端には屈曲片9を有する連杆8が一体に形成されており、屈曲片9の一側先端は揺動自在に枢着された入賞装置作動杆3の一側端下面に接触して位置し、入賞装置作動杆3の他端は開閉自在に枢着された開閉片13、13′と框体12′を有する入賞装置11′の揺動杆15′の後端部19′の突出部分上面に接触するように配置された複数入賞装置の同時作動装置であり、右装置において、開閉片13、13′が開放された入賞装置11、11′にそれぞれ入賞球14、14′が入ると、入賞球14、14′は揺動杆15、15′の先端部17、17′で流出を阻止され、開閉片13、13′は下方において入賞球14、14′により開放を妨げられ、閉止するが、別紙図面(二)に記載されていない他の入賞孔に入賞球Aが入ると、入賞球Aは球転流杆2上を転流し、框体12内に落下して揺動杆15の後端部19を押し下げ、先端部17を上方に上げて入賞球14を釈放し、そのために開閉片13、13′が開放されると同時に、球転流杆2の揺動によつて入賞装置11′の揺動杆15′の後端部19′が押し下げられて、その先端部17′の入賞球14′も釈放され、そのために開閉片13、13′が開放されるものであることは明らかである。

他方、前示本件考案の要旨及び成立に争いのない甲第二三号証(本件考案の出願公告公報)によれば、本件考案は、取付板の前面に、パチンコ機の遊技盤面を流下する打玉を捕捉する一対の開閉作動板(引用例記載の考案における開閉片に相当する部材)を平行起立及び逆八形傾動自由に軸支すると共に、取付板の裏面に設けた案内枠内に、起立した開閉作動板間に入つた打玉を後端まで導きその玉重量により該後端を下げ、それと関係的に開閉作動板を逆八形傾動させるレバーを設けたセーフ玉受口器に関するものであつて、開閉作動板の開閉はレバーの上下動によるもの、すなわちレバーの後端が下動すれば開閉作動板は開放状態となり、上動すれば閉止状態となるものであることが認められるのであつて、本件考案における開閉作動板の右開閉機構は、開閉片の開閉が開閉片の下方に入賞球が存在するか存在しないかによる引用例記載の開閉片の前記開閉機構と基本的に相違するものである。

2 原告は、引用例記載の考案における入賞装置は開閉片が起立している際にも該開閉片間に玉が入り得るものであり、その入賞球を遊技盤裏面へ脱出可能にしておかなければ遊技盤前面の開閉片間に入賞球が複数個溜まることになるから、該入賞装置の取付板に玉入口が設けられていること及び玉入口から入つた玉が揺動杆上を転流する構造となつていること、したがつて、入賞球が揺動杆の先端部に貯留されて起立状態の開閉片間に第二の入賞球が入ると、第二の入賞球は開閉片の中間部分より框体に入り、揺動杆の上を転動してその重量により揺動杆の先端部を跳ね上げて、貯留していた第一の入賞球を落下させ、開閉片を傾動させて開放状態にするものであることは、引用例に明示的には記載がないものの自明の事項であつて、実質的にはその記載があるものというべきであると主張する。

そこで検討するに、特許制度は、発明、考案に対し、その内容を公開することを代償に独占的な実施権を享受せしめるものであるから、出願明細書には当業者が容易に実施できる程度に、その出願にかかる当該発明、考案の目的、構成及び効果を記載することを要求している(特許法第三六条第三項、実用新案法第五条第三項)。したがつて、ある構成について明細書に明示的な記載がないにもかかわらず、自明の事項として実質的にはその記載があるといえるためには、出願の時点において当該明細書に接した当業者が、そこに記載されている特定の発明ないし考案の目的、構成、効果から客観的に判断して、当然にその構成が備わつているべきものと認識し得る場合に限られるものと解するのが相当であつて、出願にかかる当該特定の発明ないし考案の域を出て、単にその構成が備わつていなければその他の機能上不都合であることを理由として、その構成が備わつていることは自明の事項であるとすることはできない。

前記認定のとおり、引用例記載の考案は、パチンコ機の遊技盤面上において適所に設けた複数の入賞装置を同時に作動させる装置を提供することを目的とし、引用例に記載されている構成を採用したことにより、一個の入賞球Aにより同時に複数の入賞装置を作動させることができるという効果を奏するものであつて、右目的、構成、効果から判断して、原告が主張する開閉片の開放機構が引用例記載の考案に当然備わつているべきものと認識し得ないことは明らかである。しかも、引用例に記載されている開閉片の開放機構は、前記認定のとおり、他の入賞孔に入つた入賞球Aが球転流杆2上を転流して入賞装置11の框体12内に落下することにより揺動杆15の後端部19が押し下げられ、先端部17が上方に上がると右先端部で流出を阻止されて開閉片13、13′を閉止していた入賞球14が釈放され、そのために開閉片13、13′は傾動して開放状態となり、同時に球転流杆2の揺動によつて入賞装置11′の揺動杆15′の後端部19′が押し下げられて、その先端部17′で流出を阻止されて開閉片13、13′を閉止していた入賞球14′も釈放され、そのために開閉片13、13′が傾動して開放状態となるというものであつて、原告が主張する前記開閉片の開放機構と相違することは明らかである。

右のとおり、原告主張の開閉片の開放機構は、引用例記載の考案の目的、構成、効果からして、当然に備わつているとは認識し得ないものであり、しかも、引用例に記載されている開閉片の開放機構と相違するものである以上、これを、引用例記載の考案において自明の事項であるとすることはできない。

引用例記載の考案は、前記認定の内容の複数入賞装置の同時作動装置であるにとどまり、引用例にはこの考案についてのみ記載されているのであつて、開閉片が起立している場合にも該開閉片間に玉が入ること、そしてその玉がどのようにして景品球放出装置に流出するのかについては何ら考慮していないものと認めるのが相当である。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

次に、引用例記載の考案(補正後のもの)についての昭和五四年実用新案出願公告第一二四四〇号公報記載の実用新案登録請求の範囲に、「入賞するセーフ球により一対の開閉片を開閉作動させてセーフ球発生の確率を多様化させる公知の入賞装置が遊技盤前面に複数個装着されたパチンコ機において、」との記載部分があることは当事者間に争いがないところ、原告は、右記載部分を根拠として、引用例記載の考案は公知のいわゆるチユーリツプ式受口器(取付板に玉入口が形成されており、これを通過した入賞球は揺動杆上を後端まで転がつてその自重により該後端を押し下げ、前端を跳ね上げることにより関係的に開閉片を傾動させるもの)を前提とするものである旨主張する。

しかし、引用例記載の考案が右のような開閉片の開放機構を有する、いわゆるチユーリツプ式受口器を前提とするものでないことはこれまでに説示したところから明らかであり、補正後の特許請求の範囲に前記記載部分が加えられたからといつて、そのことから引用例記載の考案がいわゆるチユーリツプ式受口器を前提とするものであるとすることはできず、原告の右主張も理由がない。

以上のとおりであるから、引用例記載の考案における入賞装置が前記<1>、<2>の構成を有し、その作動をなすものであることは自明の事項であるとする原告の主張は理由がなく、引用例記載の考案について、「入賞球は揺動杆15を後方に向つて転流するものではなく、まして本件考案の構成要件の一つである『起立した開閉作動板間に入つた打玉を後端まで導き、その玉重量により該後端を下げ、それと関係的に開閉作動板を傾動させると同時に後端まで導いた打玉を案内枠の一側壁の流出開口から外部に流出させるレバー』とは、その構成が全く相違するものである。」とした上、本件考案と引用例記載の考案とは同一であるとはいえないとした審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

取付板の前面に、パチンコ機の遊技盤面を流下する打玉を捕捉する一対の開閉作動板を平行起立及び逆八形傾動自由に軸支すると共に、取付板の裏面に設けた案内枠内に、起立した開閉作動板間に入つた打玉を後端まで導きその玉重量により該後端を下げ、それと関係的に開閉作動板を傾動させると同時に、後端まで導いた打玉を案内枠の一側壁の流出開口から外部に流出させるレバーを設けたセーフ玉受口器において、前記レバーの後端部に、案内枠の流出開口が設けられた一側壁の反対側の他側壁から側方外部に突出する突出片を設け、該突出庁に下動する動作連動部材を関連的に配置したことを特徴とするパチンコ機の打玉処理器間接作動装置。

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